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百合とかGLとかガールズラブとか、いっぱいいっぱい書きたいですvv

 
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2009年02月15日
バレンタインの贈り物

「ただいま。
 …って、何このにおい!?」
「うわっ、桃香、もう帰ってきたのか!?」
「い、いったい何なの?」

外出から予定よりも早く帰ってきた桃香を迎えたものは、
異様な悪臭だった。
悪臭の発生源は台所…のコンロにかけられていた鍋の中にある、
炭化した物体だった。
桃香はいそいで部屋中の窓を開け、悪臭を追い出そうとした。
(寒いから部屋で暖まろうと思ってたのにー)



「あきれた」
「しょうがねーだろ。
 こんなこと、滅多にすることじゃないしよ」
「だからってね、
 チョコを直火にかける人がどこにいるのよ。
 それも強火で。
 すっかり焦げちゃってるじゃない。
 まだ部屋の焦げ臭さが消えないし、あの鍋もう使えないよ」
「…ごめん」
「どうしてこんな慣れないことをするかなー?」
「だって…」

由真は少しばつが悪そうに桃香から顔を逸らしていた。
それは、料理に失敗したことを恥じているという感じではなく、
どちらかというと、照れくささを覚えているような表情だった。

それは、桃香以外には決して見せることの無い顔。
それを見た桃香は、
姉が何をしたかったのかが何となくわかった気がした。
台所を見たところ、手付かずの炭化の危機を免れたチョコがまだ残っている。
いつになく落ち込み気味の姉を元気付けたい、
そんな気持ちが桃香の中に生まれた。



「お姉ちゃん、チョコまだ余ってるみたいだから、
 ガトーショコラ作ろうか?」
「…ガトーショコラ?ンなもん…作れねーよ」
「私が作るわよ」
「ま、待てよ!それじゃあ意味が…」

そのときの由真の態度で、
桃香の憶測は確信へと変わった。
姉は私のためにわざわざ手作りチョコを作ってくれていたんだと。

そして、嬉しくなった。
別に出来合いのものを買ってくれるだけでも十分嬉しいのに、
わざわざ自分のために慣れないことをしようとしてくれたことに。
だから、そんな姉の気持ちをを無にしたくはない、
そういう気持ちが桃香の中に芽生えていた。



「じゃあ、いっしょに作ろうよ。
 お姉ちゃんのわからないところは、私が教えるし」
そんな桃香の提案に由真は、少しだけ間をおいたが、
しばらくして少し明るくなった表情で返した。
「…ああ!」
由真がそう返事をしたとき、
部屋の中に充満していた焦げ臭さはすでに無くなっていた。



「なるほど、
 ボウルにチョコを刻んで入れて、
 それをお湯の入った鍋に入れて溶かすのか。
 …で、なんて言うんだったっけ?」
「湯せんよ、湯せん」
「あ、そうだっけ」
やはり由真は料理に関してはかなりの素人、
桃香の指導無しでは、とても先に進めることなどできるはずもなかった。
下手したら、先ほどのような惨事を再度引き起こしかねなかった。



「そういえば…」
「何だ?」
「お姉ちゃんとこうして台所に立つのって、初めてだよね」
「…そうだな。あたし、料理しねーし」
「お姉ちゃんがエプロンしてるところとか、初めて見たもん」
「う、うるせえな」
いつも勝気で活発な由真だが、
この時ばかりは恥じらいの表情を見せていた。
桃香はその表情をとても愛らしく思っていたが、
それを言うとせっかくのこの機会が台無しになりそうな気がしたから、
黙って気付かないふりをすることにした。

どうにもぎこちない由真に対し、
桃香は時折鼻歌を交えるくらい終始上機嫌で、
的確かつスムーズに作業をこなしていた。



それからしばらくして、ガトーショコラは焼きあがった。
桃香はホール状のガトーショコラを切り分け、2人分をテーブルに置いた。
テーブルの上には、
いつのまにか桃香が準備したティーセットが置かれている。

「できたねー」
「ああ…」
「どしたの?」
「いや…桃香はやっぱりすげーなって思って」
「ど、どうしたのよ、いったい」
突然の姉からの言葉に戸惑う桃香。

「だってお前、料理が上手で、
 こんなのだってすぐに作れてしまうし…。
 あたしなんて、チョコ溶かすことでさえできなかったのに。
 今日のチョコだって、桃香のために作ろうと思ったのに、
 結局桃香の手を借りることになっちまったから…」
由真はそう言いながら、表情がまた料理前のものにまた戻りつつある。
そんな姉をみて、桃香は言った。
「別に、いいよ。
 私たち趣味とか違うから、
 あまり一緒に何かをやるってことがなかったでしょ?
 だから…今日いっしょにお菓子作りができて、すごく嬉しい」
そう言う桃香の顔は、まるで桃のようにほのかに赤くなっていた。
「桃香…」
少し曇りがちだった由真の顔は、
その瞬間一気に晴れやかなった。
そして、やっぱり桃香にはかなわない、
桃香はいつもそばにいてほしい、そう思う由真だった。

「さ、早く食べよ。かたくならないうちに」
「ああ、そうだな」



2人で作ったガトーショコラは、
苦さと甘さがうまく調和して、とてもおいしかった。
由真にとって、それはまるで、
今日の惨事から現在の至福への過程を表現しているように思えた。

「あげるつもりが、もらっちまったな」
「何?」
「なんでもねえよ」

桃香と2人で共同で何かを作り上げる喜び、
由真にとってはそれが、バレンタインの贈り物のような気がしていたのだった。

「お姉ちゃん」
「何だ?」
「…ありがと」
「何が?」
「何でもないよ」
「なんだよそれ、気になるだろ」
「お姉ちゃんだって言わないから教えてあげませーん」
「ンだよそれー?」

口には出して言わないが、
桃香もまた由真と同じような気持ちになっていたのだった。



(END)



↓ 後記ですよん


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ここは高橋家。
時計の針は11時30分を差していた。
11時とは言っても、午後の11時。
その家のリビングルームに、高橋絵里子と香田あかりはいた。

「それでさー」
「だよねー」
パジャマ姿な2人はいろんなことを話し合っては笑ったりと、
その時間をとても楽しんでいる。
この日は、香田が絵里子の家に泊まりに来ていたのだった。



昼間に絵里子が香田を誘ったのである。
絵里子の突然の誘いに最初は戸惑う香田だったが、
絵里子が強く願ったため断れなかったのである。
別に遠慮していたわけでもない、億劫だったわけでもない、
むしろ絵里子と長い時間いっしょにいられるのは大歓迎だったわけだが、
香田は理性を保てるのかが不安だったのである。
なぜなら、香田と絵里子は、
友情というものを超えた関係で結ばれていたから。



「あははは」
「この芸人面白いよねー」
しかし、いざ来てみると、何のことはない。
いっしょに食事をして、いっしょにゲームして、
いっしょに宿題して(ほとんど写してもらっただけど)…
で、
いっしょにおしゃべりして、いっしょにTV見て…
これでは普通に友達の家に泊まりに行くのとなんら変わりはない。
気がつけば今まで見ていたTV番組も終わっていた。



「もう12時かー。
 眠くなってきちゃったねー」
「あ…うん」
「明日も学校あるし、もう寝よっか」
「え、あ、そうだ…ね」
絵里子は至ってマイペースのまま。
自分は変に意識しすぎていたのだろうか。
香田はそう思うと何となく気が抜け、
ほっとした反面、少し残念な気もしていた。



絵里子は自分の部屋に入り、香田を招きいれた。
すると、突然デスクの横にある紙袋をあさり始めた。
「絵里子?」
予想しなかった絵里子の行動を怪訝に思う香田だったが、
「あった!」
と、絵里子は突然大きな声を出したため、少し驚いてしまった。



「香田、これ…」
絵里子から淡いピンクのラッピングをされた小さな箱を手渡された。
「これは…」
言葉を続けようとすると、
絵里子はさっきまでの談笑のとは違う、
穏やかな口調でこう言った。



「お誕生日、おめでと」



…ああそっか、明日、いや、もう今日は自分の誕生日だったんだ。
絵里子は自分のためにプレゼントを用意してくれていたのだ。
嬉しい、とても嬉しい。
だけど絵里子は、もっと嬉しい言葉を言ってくれた。

「私ね、香田の誕生日、他の誰よりも早くお祝いしたかったんだ。
 だって、私にとって香田は、大事な…大事な……」
「絵里子…」
「だから、ムリ言って香田をウチに泊めることにしちゃったの。
 そうすれば、日が変わる瞬間も、香田のそばにいられるから…。
 そばで香田をお祝い、できるから…」
絵里子は次第に顔を赤くして、視線を下げるようになった。
それに伴い、声がトーンダウンしていく。
「ごめんね、香田。
 無理につき合わせちゃって」
申し訳無さそうに謝る絵里子を、
香田は優しく抱いた。
「いいよ、絵里子。あたし、すごく嬉しい」
絵里子の気持ちがとても嬉しくて、
香田は感謝の念をこめて抱きしめた
「…ありがとう」



こんなにも自分を好きでいてくれる人がいる。
こんなにも自分を愛してくれる人がいる。
香田はこれ以上ない幸せを感じていた。
これ以上ない心の温もりを感じていた。

だから自分も、
絵里子のことをめいっぱい好きになろう。
絵里子のことをめいっぱい愛そう。
「絵里子…あたし……」



「すぅ…すぅ……」
「?…絵里子??」
香田に抱かれたまま、絵里子はいつの間にか眠っていた。
「な、なんじゃこりゃ~」
香田はすっかり気が抜けてしまい、
先ほどまでの万感の思いは、あっという間に消えてしまった。
少し絵里子のことを憎らしく思う香田だったが、
その緊張感の微塵もない寝顔を見て、
何だかどうでもよくなったようだった。
「すぅ…すぅ……」
こんなにも無防備だと、ちょっといたずら心が芽生えてくる。
しかし、絵里子のとても安心しきった寝顔を見てると、
それも悪い気がした。
「まったく、ホラ、カゼひくよ」
香田の呼びかけに、絵里子は少し反応する。
そう深い眠りにはまだ就いてないようだった。
「さ、おふとん入ろ?」
「…うーん」
そして2人はそのままベッドに入った。



ベッドに入ると、絵里子はそのまま深い眠りに就いた。
その早い眠りに香田は少し呆れながらも、
そのかわいらしい寝顔にこれ以上ないほどの愛しさを感じていた。

いつしか香田は、絵里子を抱き寄せていた。
そして、そのやわらかく温かい感触に浸っていた。


  絵里子、ありがとう

  こんなステキな誕生日を迎えられて、とても嬉しい


誕生日はまだ始まったばかり。
しかし、今日最も幸せでいられる時間は、
まさに今、この時なんだと思う香田であった。



(END)




↓ 後 記 な の で す


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「あきれた」
「何度も言うなよ」
「本気で濡れて帰るつもりだったの?」
「だって・・・仕方ないだろ?」
「ちゃんと傘もって出なかった人が悪いんです」
「うっ・・・」



昇降口で待っていたのは、やはり桃香だった。
由真はようやく自分の知っている存在を確認したことで、
安心感を抱いていたが、
会って早々思い切り愚痴られてしまい、
決まりの悪い思いをしていた。

「あーもーうるせぇなー。
 それより、桃香お前いったいどこ行ってたんだよ?
 教室にも保健室にもいなかったし」
桃香の愚痴を振り切るように強い口調で問う由真だったが、
それに対し桃香は、
「・・・別に」
と、目をそむけてそっけなく応えるだけだった。
(ったく、カンジ悪ィな・・・)
いつものこととはいえ、桃香の態度にいら立ちを覚える由真だったが、
目の前にいる桃香の姿にどこか違和感を感じていた。



「・・・お前、カバンは?」
由真は桃香に対して感じていた違和感に気付き、そこを突いた。
「え?あ、そ、それは・・・」
先ほどの反応とは打って変わり、動揺する桃香。
よく見ると、桃香は通学用のカバンを持っていなかった。
普通、登下校するときは教材の入ったカバンを持っているものだ。
もっとも、教材を入れず、筆記用具と携帯電話といった、
その人にとって最低限必要なものしか入れない者もいるが、
それでもカバンくらいは持っているものである。

その代わりに桃香が持っていたのは2本の傘。
一つはきちんと巻かれているもので、
もう一つは半開きになってぐっしょり濡れている。

由真はもう一度桃香を見てみた。
よく見ると、少し濡れている。
特に足元は土を含んだ水で汚れていた。

由真にはわかった。
桃香はずっと学校にいたわけではない。
一度は外に出たのだ、ということを。



「まさかお前、一度帰って戻ってきたのか?」
由真は驚いたような口調で桃香に聞いた。
「そ、そんなこと・・・」
桃香は反論しようとするが、言葉が続かない。
「そんな、お前、わざわざ・・・」
由真にはもうわかっていた。
桃香は一度家に帰っていたことを。
そして、自分のためにわざわざ傘を持って学校に戻ってきてくれたということを。



少しの間桃香はうつむいたまま黙っていたが、
ようやく重い口を開いた。
「だって、お姉ちゃんなかなか帰ってこないし、
 それで傘立て見たら、お姉ちゃんの傘があったから、
 きっと傘忘れて出ちゃったんだなって思って・・・
 だから・・・」
桃香の声は次第に小さくなり、やがて雨の音にかき消されて聞こえなくなった。
が、
「あー!もう!いいでしょ!?
 せっかくわざわざ持って来てやったんだから、コレ使ってよね!!
 はい!!」
桃香はいきなり顔を上げると突然大きな声を上げ、
きれいに巻かれた方の傘を由真に差し出した。
そんな桃香の顔は、なぜか赤かった。
「な、なんだよ?」
突然の桃香の剣幕に戸惑う由真だったが、
迫力に押されて思わず傘を受け取るのだった。
「さ、帰るからね」
桃香はそう言うと由真にそっぽを向け、半開きの方の傘を差し、校門の方に向かった。
「あ、ちょっと、待てよ!」
呆気にとられてた由真だったが、
桃香が帰ろうとしているのに気付くと、彼女のあとを追いかけるのだった。



「待てってば」
由真は雨の降りしきる中、桃香を追っていた。
最初はそれを振り切るように早足で歩いてた桃香だったが、
何度も呼ばれているうちにやがて、速度を緩め、そして止まった。
そして、ついに由真の呼びかけに応えたのだった。
「何よ」
少しだけ沈黙の時間があったが、
その後由真はそっと口を開いた。


「桃香、その・・・ありがとな」


由真は後ろから、
優しい口調で感謝の言葉を桃香に贈った。

そんな由真の言葉に対し桃香は
「べ、別に・・・たいしたことじゃ・・・」
と、ぎこちない口調で返すのだった。



由真からは桃香の顔を見ることはできなかった。
桃香が反対方向を見ていた上に、
傘で桃香の顔が完全に隠れていたから。
いや、隠れていたというよりも、
隠していたというほうが正しいかもしれない。



「私はただ、お姉ちゃんがこのまま帰れなくて、
 寂しい思いをさせるのはかわいそうだなって思っただけなんだから。
 お姉ちゃん寂しがりやだから泣いちゃうかもしれないし」
相変わらず憎まれ口ばかり叩く桃香。
「とにかく、わざわざお迎えに来てやったんだから、
 後でいっぱいお礼してもらうんだからね」
桃香の言葉に由真はただ「へいへい」と返すだけだった。
あながち間違いではないだけに、
早いところそんな話を終わらせたいという気持ちもあったから。



「それに…この雨のなか1人だけ家にいるのも、
 何だか自分ひとりだけ取り残されたみたいでイヤだし…」
ぼそりとそうつぶやく桃香。
それは小さな声だったが、
雨音にかき消されることなく由真の耳に入ってきた。
「桃香…?」
桃香の言葉に反応する由真。
「あ、いや、別に寂しかったとか、
 そういうわけじゃないんだから!
 勘違いしないでよね!」
まさか聞こえたとは思っていなかったようで、
桃香はまた必死になって誤魔化そうとしていた。



そんな桃香の後ろで、
由真はひとり考えていた。



  そっか…

  桃香は家に帰っても私がいなきゃ、1人きりなんだよな。

  そして私も、さっきまで1人きりだった。

  慣れたはずの場所だったのに、何ともいたたまれない気持ちだった。



  桃香もまた、家で1人、いたたまれない気持ちだったんだ。



  あの時間の私と桃香、同じ気持ちだったんだな・・・



「桃香!」
「な、何…きゃっ」



由真は自分が差していた傘をたたむと突然、
桃香の傘の中に入った。
「な、何なのよ、いきなり」
「へへ、何かこっちの方が良くてさ」
由真は幸せそうな顔をしてそう言った。
「どうしちゃったのよ?」
突然の由真の奇行に戸惑う桃香だったが、
そんな桃香を気にすることなく、由真は言葉を続けた。
「ここだと、桃香の顔も見えるしな」
「な、何を言って…。
 ていうか、入りきれないってば。
 濡れちゃうじゃないの!」
桃香はとにかく由真を傘から出そうと必死になっていたが…



「うーん、じゃあ、こうすればいいだろ?」


きゅっ


「あ・・・」
いつの間にか桃香は、
自分の体が由真の体に密着していることに気付いた。
落ち着いてみると、由真が自分の腰に手をあて、
抱き寄せているのがわかった。

「な、何なのよ、一体…」
「嫌か?」
「べ、別にそんなわけじゃないけど…」

恥ずかしい。
なのに、なぜかとても落ち着いてる。
桃香はそんな不思議な感覚に浸っていた。



「これなら、濡れないだろ?」
「…うん」



先ほどまで反抗的だった桃香も、
すっかり穏やかになり、
いつしか自分から由真に寄り添うようになっていた。



1つの傘の下で身を寄せ合う2人。
辺りはすっかり暗くなっており、
雨のせいで身を刺すほどに気温は下がっていたが、
傘下の2人は身も心も温めあっていた。



「桃香」
「何?」
「もっと顔、見せてくれないか?」
「な、何よ…いつだって見れるくせに…」



由真と桃香は家族なんだから、
いつも顔を見れるのは当たり前のこと。
しかし、今の由真にとっては、それがとても幸せなことなのだと感じていた。



「桃香」
「今度は何よ?」
「迎えに来てくれて、ホントありがとな」
「…いいってば。私は…お姉ちゃんが帰ってきてくれれば…」



あれほど激しく降っていた雨も、今は小康状態になっている。
しかし、今は家に帰りつくまで止まないでほしいという気持ちを、
口には出さないものの、2人は抱いているのであった



(END)



↓後記ですよん



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「ちっ、まだ降ってやがる」
由真は学校の教室の窓から外を見ながら、
悔しそうにそう言った。

ただ今の時刻午後4時前、天候は雨。
空は分厚くどす黒い雨雲に覆われていて、
それは大粒の激しい雨を降らせていた。
つい2時間ほど前まで空は青く澄みわたっていたというのに。

周りを見ると、もうみんな帰ろうとしているか、
部活の準備をしていた。
由真も帰ろうとはしているのであるが、
帰れない状況である。
それは、雨をしのぐための傘が無いから。
置き傘なんてものも、してはいなかった。

友人の絵里子に傘に入れてもらうよう、
お願いしようと思ってはいたが、
絵里子はすでに自分と同じく傘を持ってなかった香田と一緒に帰ることにしていたようだった。
さすがに1つの傘の中に3人は入らないだろうし、
最近恋人として付き合い始めたあの2人の間に割り入るのは気が引け、
結局声はかけなかった。
綾乃は下高谷とデートの約束があるらしく、
終礼が終わるや、鼻歌を歌いながら脱兎の勢いで教室を飛び出していった。
このクソ雨の中、いったいどこに行くのやら。

誰かから借りる、それもできないことはないだろうが、
この悪天候では、誰もが傘が必要なはず。
複数傘を持っている人からは借りられるかもしれないが、
そんな生徒は少数派だろう。
その少数派の人を求めて聞いて回るのは、正直恥ずかしい。
結局誰からも傘を借りなかったのだった。



「桃香の言うこと、聞いときゃよかったな」
またも悔しそうにつぶやいた。
そして、思い出していた。
今朝、妹から忠告されていたことを。


 『今日は雨が降るっていうから、傘ちゃんと持って出てよね。
  ゼッタイなんだから』
 『へーへー、わーったわーった』
 『ゼッタイだからね。雨が降って傘がない、なんてことになっても知らないんだから』
 『わかりましたって。しつけーなー』


しかし、結局傘を持っては出なかった。
だって、今朝は雲ひとつ無き好天で、
それがまさか今のような事態になるなど、考えもしていなかったから。



桃香なら今日の悪天候に備えて最低1本は傘を持っていることだろう。
そうすれば傘に入れてもらうこともできるだろうし、
置き傘があれば借りることもできる。
そう考えもしたが、
今朝桃香の忠告を無にしてしまったことを考えると、非常に頼みづらい。

結局由真は、雨足が弱まるまで教室で待機することにしたのであった。
うん、それがいい。
止まない雨なんて無いのだから。



ただ今の時刻午後5時過ぎ、天候は雨。
由真はまだ教室にいた。
雨足が弱まる気配は全く無い。
その上、空は次第に暗くなり始めていた。
もともと空は雨雲に覆われていて重々しい雰囲気だったのだが、
夜になりつつあるということで、
ますます暗みが増してきているのであった。
「こんなことなら、恥を忍んででも傘借りときゃよかったな」
由真は変なプライドにとらわれて、
傘について聞いて回らなかったことを後悔していた。

そして、最も気軽に使える手段を活用しなかったことについても後悔していた。
「桃香のヤツ、もう帰ってるんだろうな」
そう思いつつも由真は、わずかな期待を抱き、
今更ながらに桃香の教室、1年桃組に足を運んでみることにした。

しかし、予想通りというか、
案の定、そこに桃香の姿をうかがうことはできなかった。
保健委員だから保健室にいるのではと考えもしたが、
そこにも桃香はいなかった。
どうやら桃香はすでに帰っているようだった。



結局自分の教室に戻ることにした由真だったが、
その途中、廊下の窓から校門のほうを眺めた。
先ほどから車が校門に入っては、
生徒を車に入れて出て行くところを目にする。
おそらく、豪雨のため帰ることができない娘を家族が迎えに来ているのだろう。

この手段は、由真には使えるはずがなかった。
車で迎えに来れるような家族はいないから。
両親は仕事で長いこと海外で暮らしているため、頼ることはできない。
歳の離れた姉もすでに結婚していて、離れたところで暮らしている。
頼れる肉親といえば、桃香だけ。
しかし、その桃香ももうすでに学校を出てしまっている。
結局由真にできることは、雨足が弱まるのを待つだけ。



ただ今の時刻午後6時ちょうど、天候は雨。
雨足は相変わらず。
教室には由真1人。
クラスメートたちは部活動参加組も含めて、
もうほとんどが帰路についていた
教室の電灯は点けていたが、
外はかなり暗くなっているため、電灯の光がいつもよりまぶしく感じる。
由真1人のために照らす光としては、
あまりに強すぎるような気がしていた。
そしてそれが由真の孤独感を強めているような気がしていた。
じゃあ電灯を消せばいいのか?
消したら消したで、重々しい気持ちが強くなるような気がしたため、
結局点けたままでいることにした。

ここは教室。
昼間は友人たちと楽しく語り合った教室。
授業中は億劫でも、
それ以外では和気藹々としていてとっても楽しい空間。
そのはずなのに、今は・・・。



ぶるっ。

ふと肌寒さを感じた由真。
それが、豪雨による気温の低下が招いたものだったのか、
現在の由真の心境から来たものなのかはわからなかった。
ただ、その悪寒を感じた瞬間、
由真は一刻も早くここを出たいと思うようになっていた。
外はまだ雨が容赦なく降っている。
そしてその雨をしのぐ手段はない。
でも、かまわない。
ずぶ濡れになったって、かまわない。
帰れば風呂に入って温まることだってできるのだから。
それに、桃香だっているから。
桃香の作った温かい夕食だって食べられるのだから。

「決めた!早く帰ろう!」
自分の心にエンジンをかけるようにそう言うと、
由真は素早く立ち上がり、教室を後にした。
そして、駆け足で昇降口へと向かった。

廊下を駆けていても、もう誰ともすれ違わない。
まるで自分1人だけがこの世界に取り残されたようで、
何とも嫌な気分だった。
一刻も早くこの場を脱したかった。
そして、早く桃香の顔が見たかった。
桃香の顔を見れば、きっとこの心のモヤモヤは氷解する、
そう思ったから。



「!!」
由真は突如人影が現れたのに気付き、足を止めた。
「あれは・・・」
遠く離れていても、由真はすぐに気付いた。
体型、髪型、そして何よりも雰囲気。
見間違うはずがない。
その人影は、由真が一番知っている人のものだ。

そして、その人影も由真の存在に気付き、呼びかけてきた。

「お姉ちゃん?」



(END)



↓後記&拍手へのレスです☆


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2008年09月15日
あなたの温もり



  そばにいてくれる
  それだけでも嬉しいのに・・・

  触れ合うことができれば、
  どんな不安も解けて無くなり、
  そして、温かい気持ちになれる

  私はきっと、アイツのこと・・・



「落ち着いた?」
「・・・うん」
「そっか、よかった」
絵里子の返事に安堵の表情を見せる香田。
しかし、ベッドに横たわる絵里子の返事はまだ力無いものであった。



あれから香田は、
もうしばらく絵里子の部屋に滞在することにした。
異常なまでに取り乱した絵里子のことを、
放っておくことができなかったから。
あまりのことに状況を飲み込めず、
動揺を隠せない香田であったが、
とりあえず絵里子を落ち着けようと、
彼女をベッドに戻したのだった。



「ごめんね、香田・・・」
「全くだよ、もう、びっくりしたんだから」
「・・・」
絵里子は香田に申し訳なくて、
何も言うことができなかった。


  あの時自分は何を思ってたのだろう?

  何を感じていたのだろう?


正直、絵里子もなぜ自分があんなに取り乱したのか、
理解できずにいた。
ただわかったことといえば、
香田がその場から消えてしまうことに、
大きな不安を感じていたことだけ。

普通、気持ちが落ち着くにしたがって、
そのような時の心境を冷静に思い出してくるものであるが、
今回に限っては、どうしても思い出せない。


  どうして自分はあんなに不安だったのだろう

  いったい何を恐れていたのだろう

  不安だったのは覚えてる

  でも、何故不安だったのかが、思い出せない


絵里子はふと横を見た。
そこには香田が座っている。

今日、ずっと会いたかった香田。
その香田が、目の前に座っている。
手の触れられるほどの距離に。


  手の触れられるほど・・・


絵里子は上半身を起こした。
「ちょっと、絵里子、大丈夫なの?」
突然動き出した絵里子に驚き、気づかう香田。
「うん、大丈夫だよ」
そう返事すると絵里子は、
少しうつむき加減になり、香田に尋ねた。

「ねぇ、香田」
「何?」
「香田の手、握ってもいい?」
「え・・・?」
香田は絵里子の意外な願いに、
一瞬何を聞かれたのか理解できなかった。
「お願い…」
絵里子は懇願した。
香田は絵里子の真意を理解できず
少し戸惑っていたが、
「いい、けど…」
そう言って、ゆっくり右手を差し出すと、
絵里子は両手で香田の手を握った。
握るというよりも、そっと添えるといった感じで優しく。



「不思議・・・」
「え?」
「何だか、こうしているだけで、
 私の心の不安とか心配とかが、
 全部消えて無くなっちゃう気がする」
「な、何を言って・・・」
「香田の手、温かい・・・」
「ど、どどど、どうしたのよ!?」
恥ずかしそうに顔を赤くする香田。
一方、絵里子のほうは、
先ほどまでのやつれた感じの表情が、
次第に穏やかになってきていた。
「ね、ねぇ、もういいでしょ?」
「だーめ」
あまりの照れくささに早く手を引きたくなる香田だったが、
絵里子はそれを許さなかった。
そんな絵里子の顔は、
すごく安らいでいて、安心感に満ち溢れていた。
「うぅ・・・」
恥ずかしさのあまり何とか手を離そうとする香田だったが、
絵里子の屈託のない表情を前に、
なすすべがなかった。
「今日の絵里子、なんか変だよ?」
「えへへ、変でもいいもーん」
ようやく笑みを浮かべることができるようになった絵里子は、
しばらく香田の手に触れ続けているのであった。



「ごめんね、香田、こんな時間まで。
 もう、大丈夫だから」
「そ、そう?」
「うんっ!
 明日学校で会おうね」
「・・・わかったわ。
 明日は学校で会おうね。
 今日あたしが働いた分、
 きっちりやってもらうんだから」
「あ、それは・・・」
「アハハ、そんじゃ、おじゃましました~」
「もう・・・
 バイバイ、また明日ねー」
香田の言葉にあきれながらも、
最後は笑顔で香田を見送る絵里子だった。



香田を見送った後、
絵里子は自分の両手を見て、
不思議な気分になっていた。


  香田に触れるだけで、こんなに気持ちが安らぐなんて・・・

  どんな不安も一気に消えちゃうなんて

  こんなこと、今までなかったのに・・・

  何だか・・・心が温かい・・・


絵里子は両手を自分の胸にあてた。
まだ手に残る香田の手の感触を体で味わうように。
ドクン、ドクン。
胸の奥にある心臓を通して、
香田の手の温もりが全身に伝わるかのようだった。

「香田・・・」
やさしい、心地いい、温かい・・・
そんな香田の感触は、瞬く間に絵里子の全身に広がった。

「まるで、香田に抱かれてるみたい・・・」

そして、絵里子は思い出していた。


  はじめて香田と会ったときの事、

  最初はいがみ合っていたこと、

  そして仲良くなったこと、

  いっしょに自治委員になったこと、

  芙蓉祭をやり遂げたこと、

  そして、修学旅行のこと・・・


いつだって側には香田がいた。
そして、そのときがすごく楽しくて、
気持ちが和んで、
一緒に何かをやり遂げたとき、すごく嬉しくて・・・。

だから、これからもずっとずっと、香田といっしょにいたくて・・・。


  そっか・・・


今まで様々な思いを交錯させていた絵里子。
悩み、苦しみ、そして癒され、
絵里子は自らの気持ちを悟るのだった。


  私、きっと・・・


  香田のことが、好きなんだ・・・


  香田に、恋してるんだ・・・



(END)



 ↓ 後記らしいです(ぇ)



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Author:チカ
女の子と女の子が女の子どうしで女の子し合う話が大好きですvv
同級生百合や姉妹百合が私の嗜好。
けど、上級生×下級生もやっぱ好きvv

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